神職の文庫
設計監理 武藤弘樹建築設計事務所
M様との出逢い
長野市松代の中山間地にある皆神山。その山頂で生活を営むM様に、住宅増築のご相談を受けました。新たな正面玄関、簡易な応接機能、執務・更衣・神具保管機能に加え、所蔵する書籍の収納をご希望。さらに建物と山門の間に位置する雑木林を新たに庭園として修景整備されました。
庭園①
書庫
この建物のポイント
周囲の景観に配慮して選ばれた簡素な切妻屋根の下は、襖によって緩やかに仕切られた筒状の一室空間であり、奥へ行くにしたがって公共的領域から私的領域へと移っていく。神社を訪れる参拝客にとってこの建物は神社施設の延長であり、とりわけ教育的な側面を担っている。つまり、彼らはこの筒をのぞき込むことによって、一般的に認知度の低い神職という存在の振舞いを観察し、さらには神社・神道について考える機会を得る。ただ単に開かれているという身振りではなく、適切な物理的・心理的距離を設定し、特定の振舞いを誘発することで、住宅でも公共施設でもない、神社施設という独特の環境を創出できると考えた。
しかしこのような施設は当然、そこに住まう神職を公共的身体として拘束してしまうため、住み手が自己を露出・隠蔽するための調節装置が必要となる。敷地の高低差を利用して設けた床下の窓はそのための仕掛けである、襖を閉めて外部からの視線を遮断した状態でも、庭園への眺めを得ることができる。私的/公共的領域を明確に分断するのではなく、歪に貫入させることで、神職の体は隠蔽されつつも公共性と関係する。
こうした仕掛けがさらに神職の自意識を捕らえてしまうことは避けられないが、その自意識こそ、職業ではなく生き方としての神職という存在を規定するものであると考える。
【武藤弘樹建築設計事務所】